ウイルスがいなければ、我々はヒトになっていない

書評

中屋敷 均著「ウイルスは生きている」より。胎児を母体の体内で育てるための胎盤の働きに深く関与するタンパク質が、ウイルスに由来するものらしい。

人間の体は、異物を排除するための免疫システムを持っている。だから、怪我をするとそこからバイ菌が入って化膿するし、風邪を引いたら熱が出る。

母体にとって別個体である胎児も、当然異物として排除される対象となるはずだ。排除されないのは、胎盤があるおかげだ。胎盤は、胎児を育てるのに必要な栄養素だけ母体から胎児に通し、胎児を異物として攻撃してしまうリンパ球などの成分は通さないフィルターの役目を果たしている。

このフィルターの形成に重要な役割を果たすたんぱく質が、ウイルス由来らしい。つまり、大昔のご先祖様がこのウイルスに感染したことで、今のような胎盤の機能を身に着け、胎児を母体の体内で育てることができるようになったというのだ。

いま世界中を震撼させている新型コロナもウイルスの一種だが、ウイルスは他の生物を宿主として寄生することで増殖する。宿主が死んでしまうと、ウイルスも存在できなくなる。つまりウイルスも、宿主が死滅することは望んでいない。

ウイルスの遺伝子情報が記録されているRNAはコピーミスを起こしやすい。遺伝子情報のコピーミスにより、ウイルスは突然変異をする。突然変異をしたウイルスのうち、毒性の弱いウイルスに感染した人は長く生き残るので、それだけウイルスが他の人に感染できる機会が増える。一方で、ウイルス感染から生き残り、ウイルス耐性を身につけた人が優位に生き残る。そうすると、毒性の弱いウイルスに感染した人や、ウイルス耐性の強い人が優位に生き残ることになり、やがてパンデミックが終息する。

ウイルスは怖い。私も死にたくない。だけど周りの環境に悲観し、歩みを止めてしまえば、何も進展しない。自分の力の及ぶ範囲に目を向け、自分にできる精一杯のことをし、事態が収束するまで生き延びたい。

我々は今、ひとりひとりが、何か大きな力に試されているのかもしれない。

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