天に向かって少しずつ高みを増す摩天楼の建設のように、彼も着実に真実に近づいていた

書評

福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」より。タイトルは、オズワルド・エイブリーの研究姿勢を表現した言葉だ。エイブリーは、地道な実験を淡々と積み重ね、ついに遺伝子がDNAであるという事実を世界で最初に発見した。

本書の著者は生物学者だ。本書は、ウイルスは生物なのか無生物なのか、という論争に、著者なりの考察をした内容となっている。学者の書く本は事実を淡々と機械的に羅列したものが多く、興味の無い分野だと読むのが苦痛になるが、著者の記述はとても人間的な表現で、難しい内容でも飽きずに読み進むことができる。

本書を読む前、一度著者の公演を聞いたことがある。その時は狂牛病についての話題が主だったが、生物学だけでなく、絵画や写真技術に関する話題も織り交ぜながら、とても引き込まれる内容だったと記憶している。自分の専門だけでなく、一般教養にも精通している人の話というのは、とても深みがあって面白い。その公演以来、私は著者のファンになり、朝日新聞で著者の書いたコラムを見つけては、そのページだけスクラップして後で読んだりしている。

ある専門分野を発展させようと思ったら、ただその分野で自身が研究にまい進するだけでなく、優秀な人にその分野の面白さをアピールし、その分野に引き込む必要がある。そういう意味で、著者の活動は、生物学の発展においてとても重要な役割を果たしていると言える。

教養とは、心の豊かさである。だから教養がある人の文章は温かい。

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