器用貧乏という言葉がある。なんでも卒無くこなすが、他人よりも飛びぬけて秀でたものが無いため大成せず、貧乏に終わる、という意味だと思う。
好奇心が強く、色んなものに手を出す。器用なので、何をやっても他の人よりも早くコツをつかみ、上達も早い。だけど飽きっぽいので、ある程度のレベルまで上達し、成長速度が鈍化すると、周囲が驚くほどの勢いで冷めていき、それ以上追求したいという意欲が無くなる、という性格なのだと自己分析している。
コーヒーも一時期ものすごくハマった。まず淹れ方。ペーパードリップ、ネルドリップ、サイフォン、フレンチプレス、パーコレーターなど、色々試した。ペーパードリップは澄んだ味わいを楽しめるが、コーヒーの旨味成分である油分までろ過してしまう。ネルドリップはネルを洗ったり煮沸消毒したりと面倒だ。サイフォンは器具が複雑で手入れが大変、パーコレーターは中が見えないので抽出具合が確認できず使いづらい、ということで、フレンチプレスに落ち着いた。なおエスプレッソは本来、古くなった豆を美味しく飲むための抽出方法であり、豆の焙煎や曳き方も他の抽出方法と異なるため、私の関心からは外れた。
フレンチプレスの淹れ方は以下の通り。ドリップよりも粗めに豆を挽き、容器に入れて熱湯を注いだらしばらく待つ。プレスを下に下げて豆を容器の底に沈め、豆の粉がカップに入らないよう、静かにコーヒーを注ぐ。淹れ方も器具の手入れも簡単で、豆の旨味である油分をダイレクトに楽しむことができる。こうなると今度は、豆への関心が高まる。
フレンチプレスは油分を楽しむ飲み方なので、豆は新しいほうが良い。焙煎してから油分の劣化が始まるので、できるだけ焙煎直後の豆が買える店を選ぶ。最初は新鮮な豆を使ってそうなスターバックスやキーコーヒーで豆を買っていたが、そのうち知り合いで焙煎している人を見つけ、焙煎直後の豆を入手できるようになった。
油分の劣化とは、要するに酸化だ。豆を挽くと酸素に触れる面積が増えるので、酸化速度も速くなる。一番良いのは、淹れる直前に豆を挽くことだ。そこで小さいミルを事務所に持っていき、飲みたくなったらゴリゴリ挽いていた。挽き立ての豆で淹れたコーヒーは格別だが、事務所で豆を挽いていてよくクビにならなかったと思う。
こうして焙煎した豆の入手ルートと淹れ方が決まると、あとは毎日豆を挽いて淹れるの繰り返し。こうなると、飽きっぽい私はだんだん毎日のルーチンワークに飽きてきて、コーヒー豆を毎回挽いたり、コーヒーを淹れた後にフレンチプレスの容器を洗うのが面倒になってきた。そのうち、豆は既に挽いてあるスーパーの豆で、淹れ方は片付けがラクなペーパードリップに落ち着いた。
そんなに面倒ならインスタントで良いんじゃないの、とよく言われる。あれはあれで美味しいのだが、淹れたコーヒーとは別の飲み物だと思う。
コーヒーにお湯を注ぐときの、あの香りだけは捨てがたい。