能力は六十点でいい

書評

江口克彦著「成功の法則」より。他人に仕事を任せる場合、六十点の能力があれば、どんどん任せたらよい、ただし、それプラス熱意が大事、との松下幸之助さんの人材観に基づく。

著者は、松下幸之助さんの晩年期に、二十二年間一緒に仕事をし、ご本人曰く、この二十二年間は二十四時間勤務だったとのこと。この稀有なご経験に基づき、松下さんの成功理由を体系化されたのが本書だ。

人の能力は測るのが難しい。それに、出来るかどうかなんて任せてみないとわからない。だから、熱意があれば、六十点くらいの能力でもどんどん仕事を任せたらよい。熱意さえあれば、そのポジションが人を育てる。

個人的な業務遂行能力が高い人ほど、人に仕事を任せるのが苦手ではないかと思う。能力が高い人は、他人に仕事を任せるよりも自分でやった方が早い、良い結果が出る、と考えがちだ。しかし、一人の人間が対応できる仕事量には限界がある。だから、自分以外の人にもできる仕事はどんどん人に任せて、自分だけができる仕事に集中したほうが良い。その方が、人も育つし自分自身も良い成果が出せる。

以前の職場にAさんとBさんの二人の優秀なリーダーが居た。Aさんは何でも自分でやろうとするタイプ、Bさんは部下にどんどん仕事を任せるタイプだった。やがて彼らの上司は、Bさんを昇格させた。Aさんは怒って、「私の方が沢山成果を出しているのに、なぜBさんを昇格させるんだ」と上司に食って掛かった。それに対して上司は、「どんなに優秀でも、一人でできる仕事には限界がある。より大きな仕事を任せられるのは、どんどん人を使うことができるBさんだ」と応えた。その後、Aさんも部下にどんどん仕事を任せるようになった。

任せるというのは、丸投げすることではない。自分がやったときと同じような成果が出るように、きちんとフォローしなければいけない。任せた仕事が失敗したら、それは仕事を任せた上司の責任だ。

任せる側も任される側も成長し、組織は強くなっていく。